「まずは、まちを好きになる。」その言葉から始まった財田での暮らし_石井優香さん(30代)

更新日:2026年08月10日

古民家カフェ「Café季-とき-」を営みながら、地域資源である古民家の活用にも取り組む石井優香さん。
神奈川県横浜市から2018年から地域おこし協力隊として三豊市へ移住し、任期中から準備を進めてきた「Café季-とき-」を2021年に三豊市財田町にオープンしました。
現在はカフェの運営に加え、「一般社団法人 財TURN(さいたーん)」の活動や「シェアハウスNAE」の
管理などを通して、地域と関わるさまざまな取り組みを続けています。
今回は、三豊市へ移住したきっかけや、古民家カフェ開業までの道のり、現在の活動についてお話を伺いました。

PISODE.01「移住のきっかけ」

石井さんは神奈川県横浜市出身。以前は個人経営の洋菓子店でパティシエの仕事をしていました。
もともと「古民家で自分のお店を開きたい」という夢があり、地方移住にも興味を持っていたそうです。
しかし、移住と開業を同時に始めることには大きな不安がありました。
「生活も仕事も一度に変わるので、いきなり自営業を始めるのは難しいと思っていました。」

当時勤務していた洋菓子店では、朝6時から深夜まで働く日が毎日。自分の時間を持つことが難しい生活だったといいます。
そんな中で、改めて注目したのが地域おこし協力隊という制度でした。制度自体は以前から知っていましたが、移住フェアで改めて話を
聞いたことで、自分が移住するイメージがより具体的になったといいます。
「地域おこし協力隊として地域を知り、自分を知ってもらいながら生活基盤を整え、お店の開業に向けて注力できるなと思いました。」

EPISODE.02「三豊市を選んだ理由」

地域おこし協力隊として移住することを決めた石井さんは、香川県や愛媛県を中心に募集自治体を探し始めました。移住相談で訪れたふるさと回帰支援センターから、
三豊市を含むいくつかの自治体を紹介されます。

募集内容を比較する中で三豊市に興味を持ち、2泊3日で香川県を訪問。県内を巡る中で、「その中でも、三豊市がダントツでしっくりきたんです」と振り返ります。
理由の一つが、地域おこし協力隊の受け入れ体制でした。当時、香川県内の地域おこし協力隊の活動内容などを発信しているWEBサイト「さぬきの輪」に掲載されていた記事では、
地域の方がどのような思いで協力隊を受け入れようとしているのかが紹介されており、その内容が印象に残っていたといいます。

香川を訪れた翌週には、東京で開かれた地域おこし協力隊の合同募集説明会にも参加。三豊市のブースでは、市職員だけでなく地域の方も参加されていました。
その中で印象に残っているのが、先輩移住者として、そのブースで対応してくださった方からの「まずは、まちを好きになってください。」という言葉です。

「地域の温かい受入れや支援を経験した人だから言える言葉だと思いました。この方がいる地域なら間違いないし、何の心配もないなと感じました。」
その後、地域おこし協力隊募集に応募し、採用されました。

EPISODE.03「夢だった古民家カフェと地域とのつながり」

石井さんは、地域おこし協力隊になる前から「古民家でカフェを開く」ことを目標にしていました。
着任から半年ほど経った頃、地域の方から財田にある旧宇野邸を紹介されます。しかし、最初は建物の大きさを見て、一度は断ったそうです。

「一人でお店をするには大きすぎると思いました。」
その後、地域で活動を続ける中で、旧宇野邸が地域の方にとって思い入れのある場所だと知ります。昔の暮らしや、この場所で過ごした思い出を聞くうちに、
「それらのストーリーを含め『宇野邸』を地域の資源として未来に繋げたい」という気持ちが強くなっていきました。
開業を考え始めた頃には、「草抜きでも皿洗いでも手伝うよ」と地域の方から声を掛けられるようになりました。また、大家さんとの話し合いでは地域の方が間に入り、開業に向けて準備しやすい環境を整えていただきました。

「協力隊だったからこそ、こうした人とのつながりができたと思っています。」

任期中は、協力隊としての活動とは別に掃除会やイベントを開きながら少しずつ準備を進め、地域おこし協力隊の任期終了後に「Café季-とき-」をオープンしました。
オープンから5周年を迎えた現在は、カフェとして営業するだけでなく、シェアキッチンやクラブ活動など、地域内外の方が集まる場としても利用されています。
「カフェを大きくしたいというより、この場所をいろいろな人に使ってもらえる場所にしていきたいと思っています。」

EPISODE.04「三豊で感じた豊かさ・移住して変わったこと」

石井さんは、三豊市に移住してから、暮らしの中で「時間の豊かさ」を実感するようになったと話します。
以前は洋菓子店で働き、朝早くから深夜まで仕事をする日も多く、自分の時間を持つことがほとんどありませんでした。

「時間があるって、こんなに豊かなんだと思いました。」

また、人との関わり方にも変化がありました。地域の方から野菜をいただき、お礼に手土産を持って行くと、「そんなことせんでええ」と言われたことが印象に残っているそうです。
「物の価値がお金だけじゃないというか、気持ちのやり取りなんだなと思いました。」
地元で採れた野菜や果物、魚などを身近に味わえることも、三豊で暮らして感じる魅力の一つです。

一方で、移住前に思い描いていた暮らしとの違いもありました。
「四国だから暖かいと思っていたんですが、財田は本当に寒かったですね。」

また、地域との距離の近さも、移住して実感したことの一つでした。
「私は気になりませんでしたが、人によっては近いと感じることもあると思います。」
石井さんは、地域との関わり方は相性や好みによるものだと話します。
「地域の方との距離感は、自分で調整することが大切だと思っています。相手を変えるのではなく、自分が距離の取り方を身につけることが大事だと思います。」

EPISODE.05「現在の活動とこれから」

現在は「Café季-とき-」の運営に加え、シェアハウス「シェアハウスNAE」の運営、「財TURN」での活動、香川県地域おこし協力隊ネットワーク「かがわごと」にも携わっています。
財田町で、移住者支援や空き家の利活用などに取り組む団体「財TURN」。石井さんを含めた、メンバー5人で令和7年度に法人として設立されました。

NAEは多拠点生活サービス「ADDress」の香川県第1号拠点として開設され、移住を検討している方や地域と関わりたい方など、さまざまな人が滞在する場所となっています。
現在は「財TURN」に運営が譲渡され、ADDress会員だけではなく一般の方も使用できるようになりました。利用者と地域をつなぐきっかけづくりも大切にしながら運営を続けています。
また、「かがわごと」の運営にも携わっています。「かがわごと」は、県内の地域おこし協力隊を支える団体として、香川県からの委託を受けて立ち上げられました。
石井さんは立ち上げ当初からコアメンバーとして参加し、西讃地域を担当しています。現在は法人化され、県内の地域おこし協力隊同士の交流や情報交換、相談支援などを行っています。

「地域おこし協力隊の制度は、自分にとってすごく核となっているものです。制度を活用して来られる方に、自分にできることがあれば協力していきたいと思っています。」

一方で、石井さんは「地域のため」という思いだけで活動しているわけではないとも話します。

「『恩返し』というと恩着せがましいので、あまり言わないようにしています。言葉にするなら、一番は『地域を未来へつないでいくこと』です。今暮らしている人たちにもきちんと目を向けながら、財田に住む人や、これから住みたいと思ってくれる人が、幸せだと思える暮らしを守りたいと思っています。」
「見ず知らずの自分を、ここまで受け入れていただいたことには本当に感謝しています。」

今後の活動について尋ねると、石井さんは「あえてノーコメント」と答えました。
「『移住者が何かしてくれる』『移住者は何かしなければならない』というようなニュアンスをお伝えしたくないと感じたからです。」
「財田町が好きだから暮らしたい」。石井さんは、そんな何もしなくても許されるような、のんびりとした豊かな財田町の雰囲気が大好きで、「これからも守っていけたらいいな」と話してくれました。
(写真提供:石井さん)
【取材後記】

今回の取材では、古民家カフェの開業までの経緯だけでなく、地域との関わり方や移住に対する考え方についても伺うことができました。石井さんのお話からは、地域に溶け込むことを急ぐのではなく、自分らしい距離感で暮らしを築いてきた様子が伝わってきました。移住を考えている方にとっても、新しい地域で暮らす一つのヒントになるのではないでしょうか。

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